キリモミ君の作戦(八)

 突然この場に現れた本物の『かの有名な金持ち』は一同の前で言った。
「だいたい、お前達は気づくのが遅すぎるぞ。けしからん。私はほんの少しの間のバカンス程度に思っておったのに、こんなに長い間静養させてもらえるとは思わなかった。おかげですっかり元気になったことだし、そら、わしの影武者もそろそろくたびれてきて、調子が悪くなったことだしな。それに、そろそろ我が家も恋しくなったことだし。」
従者長は思いもかけなかった本物の主との再開に、感激して言葉も出なかった。他の従者達も、床に膝をついて泣き出す始末だった。『かの有名な金持ち』は、そんな従者達の様子を見て涙を浮かべていた。
「お前達は本当によくやってくれたな。私の孫娘の面倒も本当に親身になって看ていてくれたことを心から感謝するぞ。」
そして、『かの有名な金持ち』はウズラちゃんに近づき、しっかりと抱きしめた。ウズラちゃんも泣いていた。『かの有名な金持ち』はウズラちゃんを抱きしめながら言った。
「キリモミ君の言っていたことは本当だ。私ら大人の都合で犠牲になり続けていたのは、お前達だったのぅ。本当にすまなかった。じいさんらしいことも一つもしてやれなかったが、許してくれ。すべてを元の通りに戻すのには長い時間と、沢山の人の協力が必要だったのだ。ありがたいことだ。金を使っても人の心は動かせない。多くの人が私ら家族のために協力してくれたことを忘れてはならない。そして、ウズラ、今日はお前の誕生日のようなものだ。お前が失ったものは大きかったが、出来る限り取り戻してあげたい。今日は、大きなプレゼントがあるぞ。そのために、私の従者のうち二人が協力してくれていてな。・・・もう、彼らも戻るころだ。」
そう言うと、『かの有名な金持ち』はドアの方に振り向いた。廊下の暗闇から、今まで姿を消していた若い従者二人が部屋に入り、『かの有名な金持ち』に一礼をすると、後ろの闇に声をかけた。闇にいる何者かは中に入ることを少しためらっているようであったが、従者に促されると、ウズラちゃんをまっすぐに見つめるようにして、・・・二人の男女が入ってきたのだ。その二人を見た途端、ウズラちゃんは信じられないといった目をし、驚きと、そして言葉に出来ないほどの嬉しさが込み上げてきて、大声で泣き崩れた。入ってきた二人はそんなウズラちゃんをきつく抱きしめた。二人も声を出して泣いていた。それを見守るキリモミ君も、ポケットの中のチューも、『かの有名な金持ち』も、八人の従者達も・・・そして、婦人警官のお姉さんも泣いていた。館の屋根は雨に濡れ、すっかりと陽が落ちた今では、館の最上階の一室に灯るあたたかい光がこの町すべてをほのかに照らし、包み込んでいた。
一同は長い時間をそこで過ごし、そして八年ぶりの再会をはたしたこの親子のために、やがて一同はその部屋を後にした。『かの有名な金持ち』はそこでさっきから気になっていたことを従者達に質問したのだ。
「ところで、お前達、何でそんな物々しい服を着ているんだ?」
キリモミ君は従者達に代わって答えた。
「ウズラちゃんの思い出のタイムカプセルは、すごい威力があるんだよ。見てよ。防護服を着ているみんなだって、すっかり心まで吹き飛ばされちゃったんだからね。」
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