キリモミ君の作戦(七)

 従者長のあまりにも意外な話に、その場にいた多くの者は混乱していた。本当にはじめて気がついた者。あるいはうすうす気がついてはいたが、まさか、そんなことはないだろうと心の中で否定していた者。従者長はこの場の混乱を収めようと一層大きな声で言った。
「みんな、この様子だと何か大きなショックを与えない限りは、この機械・・・偽の旦那様は目を覚ますことはない。この場でハッキリさせようではないか。私はこれ以上ロボットのお世話をし続ける気は無い。王様・家来ごっこを続けるのはもう、まっぴらごめんだ。私は本物の旦那様になら生涯お仕えする気持ちだった。この気持ちは今でも変わらない。だが・・・この偽物の機械ではダメだ。この町、この館の新たな主人を迎えようではないか。そして、それは旦那様の血を受け継ぐ、ただ一人の方、このウズラちゃんしかあり得ない。」
一同は静まり、ウズラちゃんに皆の視線が集まった。このあまりにも急激な展開を完全には理解しきれていないウズラちゃんは、きょとんとした顔で一同の視線の的になり、明らかに動揺していた。
そんな様子を見ていたキリモミ君は、ハッとしてウズラちゃんの前に立ちはだかると、叫ぶように言ったのだ。
「そんな話、勝手すぎるよ。だいたい、あまりに突然すぎて、話がよく飲み込めないや! なのに、いきなり、ウズラちゃんに『この町、この館の主になれ』なんて、そんな無茶な話があるかい! だいたい・・・、だいたい、そういう話はウズラちゃんの気持ちを聞いてからするものさ。」
キリモミ君は続けた。
「なんだい! ウズラちゃんが、今、こんな具合で、言葉を喋れず苦しんでいるってときに、ひどすぎるよ。大人はいつだって勝手なんだ! 今のおじさんの話だって、結局はおじさん達の都合で言っているだけじゃないか! 何で、ウズラちゃんの事をもっと考えてものを言ってやれないんだよ!」
キリモミ君の声は涙声になっていた。悲しいわけじゃなかった。キリモミ君は悔しくて、泣きたくなっていたのである。いつだって自分たちは大人の都合で振り回され続けた。こんなことばかりだ。もう、うんざりだ。キリモミ君はすっかり嫌になってしまっていたのである。
そんなとき、ドアを開けて入ってきた者がいた。外はすでに雨が降りはじめているらしく、髪も服も濡らしていたその人は・・・あの交通安全教室で一緒になった婦人警官だったのである。彼女は言った。
「キリモミ君の言う通りだわ。皆さん、少々、勝手すぎるようね。それに、・・・いろいろ調査もせずに、そんなことを決めるなんて、気持ちは分かるけど、焦り過ぎよ。・・・そういうことは、まずはこの人の意見を聞いてから決めるべきだと、私は思うんですけどね。」
すると、彼女は背後にいったん退き、廊下の暗がりに待たせていた人物を連れて来たのである。その人物の姿を見た一同は、さらに腰を抜かさんばかりの驚きようだった。彼女に車イスを押されて一同の前に現れたその人は・・・今度こそ本物の、『かの有名な金持ち』の老人だったのである。
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