キリモミ君の作戦(四)

 老人はまだ動かなかった。その様子を見て、キリモミ君は鼻を鳴らし「ふん、なるほどそうなのか」と言ったかと思うと、ポケットの中のチューの耳を引っ張りながら、こう言ってしまったのだ。
「僕は今まで、おじいさんは僕たちの味方で、心の底から助けてくれている人だと思っていたよ。だけど、本当はそうじゃないんだ。おじいさんは、自分の財産を守りたくて、・・・ウズラちゃんを後継者にしたいがためにお金を出して、助けてくれていただけなんだ。ガッカリだよ。ここまで来て、おじいさんに裏切られるとは思わなかったよ。けど、もういいや、そうやって、おじいさんがいつまでもだんまりを決め込んでしらばっくれるなら、今ここで、この女の人の顔に塗られた絵の具をすべて拭き取って、ウズラちゃんに見てもらうよ。そうすれば、すべてはハッキリするんだ!」
すると、いままで動かずに黙っていた『かの有名な金持ち』は、大きな車イスの中で深く大きな息をすると、とうとう口を開いた。
「君に一体、何がわかるんだ。」
皆が『かの有名な金持ち』の言葉を待った。老人は続けた。
「今さら言い訳をする気はない。君の推測は大当たりだ。この絵に描かれているのは私の一人娘であり、そう、ウズラちゃんの母親だ。ウズラちゃん、だからお前は私の孫にあたり、私は君のじいさんだ。」
ウズラちゃんは思いもかけない展開の連続に混乱していた。老人は続けた。
「私は娘が、あの男・・・ウズラちゃんのお父さんと一緒になることには最初から反対だった。・・・正直に言おう。あの当時は私は娘がこの家を継いでくれるものと信じていた。たとえ、どんな男と一緒になっても、いずれはここに戻って来てくれるものと思っていた。だが、私の思うようにはいかなかった。ウズラちゃん、君のお父さんは本物の天才だった。娘は、あの男を愛し、研究をともにすることに喜びを見いだすようになった。娘の心から私は消え、娘本人の口から、この館には戻らない、と聞いたとき、私は失意と怒りとで娘を勘当してしまったのだ。娘はそんなことも気にかけず、天才であるあの男とともに仕事を続けて大きな成果をあげていたようだ。が、天才はその能力を利用しようとする者たちの格好の餌食となる。事実、あの男に『大いなる機械』は近づき、その持てる力を利用しようとしたのだ。だが、それに本人が気がついたときには完全に深みにはまり、抜け出せなくなってしまっていた。ある時、私はある男から話を持ちかけられた。ほら、あの学校の用務員をしていた男だ。私は彼らの計画を聞き、彼らの本当の目的よりも、これによって娘を助けられることを信じて、すべての作戦の資金援助を行ったのだ。彼らの計画では、娘と、相手の男の記録をこの世の中から抹消する、ということだったから、・・・この館にある娘の資料もすべて処分させた。絵も・・・ご覧の通りだよ。この世から、娘の姿を記録したものはすべて無くなってしまったのだ。」

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