キリモミ君の作戦(三)

 キリモミ君はその絵を前にして喋りだした。
「僕はこの絵を見たときに、なんて気持ちの悪い絵なんだろうと思ってぞっとしたよ。誰だってこんな古い館の壁にこんな絵が掛けられているのを見たら悲鳴を上げちゃうよ。だけどね、これはどうしてなんだろうと僕は思ったんだよ。この四枚の絵に描かれている女の人は、どう見ても同じ人みたいだ。この女の人は、この館で生まれ育った人で、こんな絵を子供の時から大人になるまで描いてもらっていたぐらいだから、きっとこの館にとっては大切な人だったんだろうと思ったんだよ。・・・なのに、なぜ、こんなふうに、顔の部分を消されてしまったんだろう、・・・謎だよね。」
キリモミ君はウズラちゃんの方を見た。ウズラちゃんは、状況がまだ完全に把握できていないようで、真剣な顔つきで、その絵を見つめていた。『かの有名な金持ち』の老人は、目をしっかりと見開いて、四枚の絵を見つめていたが、いまだに何の動きも見せなかった。キリモミ君は続けた。
「だけど、僕は、この四枚の絵を見ていて、あることに気がついたんだよ。」
キリモミ君は『かの有名な金持ち』をじっと見た。そして続けた。
「この四枚目の絵。この館の食堂で描かれたと思われる、この絵だよ。」
『かの有名な金持ち』の老人の目の奥で、何かの動きが感じられた。
「この一枚だけ、よく見ると、違うんだ。」
ウズラちゃんはじめ、従者達もその絵に見入っていた。
「よく見てごらんよ。この絵の、この女の人の顔の部分。ほかの絵と同じように絵の具が剥ぎ取られているのかと思って見ていたんだけど、・・・。」
全員が、その顔の部分に注目した。
「この絵だけは、顔の部分の絵の具が剥ぎ取られているんじゃなくて、上から別の絵の具が塗られているんだよ。試しにちょっとこの端の方をこすってみようか。」
キリモミ君はポケットからボロ布を出し、花瓶の水で少し湿らせてから、端の方をこすりだした。絵の具は簡単に拭き取れるのだ。キリモミ君はそこで手をとめた。
「よく見ると、誰かがこの絵の具を拭き取り、また、上から絵の具を塗ったような跡がある。それを何度も、何度も繰り返したような感じだよ。」
キリモミ君は、『かの有名な金持ち』をじっと見た。
「おじいさん、だよね。『かの有名な金持ち』のおじいさんは、この絵が掛かっている緑色の壁紙の部屋に行っては、この絵の具をこすりとって、下にちゃんと残っているこの女の人の顔を見ていたんだ。」
老人は何も答えなかった。
「どうしてなの? ・・・答えてくれないんだね。じゃあ、僕が言うよ。この絵に描かれている女の人は、おじいさんの本当の娘さんだから、なんでしょう? そして、どうして、この女の人の顔は消されてしまったのか? それは、・・・この女の人はウズラちゃんのお母さんだからだ。」
ウズラちゃんはあまりに意外な話にがく然とした。



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