キリモミ君の作戦(二)

 キリモミ君は部屋の壁際にあったテーブルを真ん中に引っ張り出して来て、その上にウズラちゃんのタイムカプセルを置いた。そして、ウズラちゃんのベッドの傍らに立ち、『かの有名な金持ち』の老人を見据えた。
老人はいまだにひと言も発することなく、一人、静寂の中にいた。そのあまりにも静かなたたずまいは、これから始まることを予期していたのか、あるいは、この館とこの町、そして自分自身の背後に着実に迫ってきている運命をすでに覚悟しているかのようにも見えた。
時間が止まったようにも思える瞬間だった。だが、その静寂を破るように、しばらくするとドアの向こうの様子が騒がしくなってきたのである。キリモミ君の思惑どおり、先程飛び出していった従者の医師から情報が飛び、完全防備の爆発物処理用防護服に着替えた従者達が、ドアの向こうに集結していたのだった。そして、誰が最初に飛び込むかという相談でもめている様子がこちらに筒抜けだったのだ。キリモミ君は、大きな声で従者達に呼びかけた。
「皆さん、そんなところにいないでドアを開けて見てご覧よ。」
その呼びかけにドアの向こうの一同はピタリと黙り込んだ。そして、ドアをおそるおそる開けながら入ってきたのは、・・・片脚を少々ひきずった、若い整備工だった。そのドアの隙間から、他の従者達も固唾を呑んで見守っている。キリモミ君はそんな様子を見ると、ポケットの中から錐を取り出してテーブルに近づき、天板の上の青い箱をコンコンと叩いた。それを見た従者達は、一斉に「危ない!」と叫び、床に伏せた。そんな様子を見て、キリモミ君は何食わぬ顔で言った。
「皆さんに頼みたいことがあるんだよ。今から、この館にある四枚の絵をここに持ってきて欲しいんだ。一枚目はこの階の南端の納戸にある女の子の肖像画、そして、次は二階の北から二番目の部屋の壁に掛かっている二人の肖像画、それに同じく二階の階段脇の戸棚の中に入っている女の人の肖像画、最後の一枚はこの下の階の東から三番目、緑色の壁紙の部屋にかかっている絵。この四枚の絵を、すぐにここに持ってきて欲しいんだけど。」
従者達は顔を見合わせ、動こうとしなかった。キリモミ君は再び錐で青い箱をコンコンと叩いた。従者達はまた悲鳴をあげて床に伏せたが、やがて顔をあげ、そこにキリモミ君の笑顔を見て慌てて立ち上がると、その四枚の絵を探しに走った。十分経ったか経たないかくらいの時間で、その絵はすべて集められ、部屋に運び込まれた。そして、皆の目の前に並べられた四枚の大きな油彩画は、驚くべきものだったのである。最初の絵は小さな女の子の肖像画、二枚目は今より数十歳は若い『かの有名な金持ち』と、その傍らに立つ少女の肖像画、三枚目は若い女性の肖像画、そして最後の絵は館内の食堂で数人の人物が描かれている絵であったが、そこにも二十代前半くらいと思われる女性が立っている。どうやら、これら四枚の絵のすべてに描かれている女性は同一人物だった。だが、信じられないことに、その女性の顔の部分は、どれも絵の具が剥ぎ落とされ、醜く崩れ落ちたようになっていたのである。・・・ウズラちゃんの悪夢は本当だったのだ。

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