キリモミ君の作戦(一)

 キリモミ君は館内を走り回ってすべての準備を整え、じっと、その時が来るのを待っていた。天井裏から見ていると、ウズラちゃんのそばには常にあの従者の一人である医師がつめており、そして『かの有名な金持ち』の老人も片時もその部屋を離れることはなかった。キリモミ君は、この部屋の周りに他の従者がいなくなったタイミングを見計らい、ついに作戦を決行したのである。
キリモミ君は何事もなかったかのように、部屋のドアから堂々と入り込んだ。医師はこの館内にキリモミ君が爆発物らしき青い箱を持ったまま迷い込んでしまっているという情報を聞かされていたので、突然入ってきたキリモミ君の腕の中にその青い箱がしっかり抱えられているのを見ると、みるみるうちに顔から血の気が引いていった。キリモミ君はそんな予想どおりの医師の反応を見て、さらに追い討ちをかけるように医師の目の前に青い箱を差し出して見せたのである。
「やっと見つけたんだ。ほら、ウズラちゃんの宝物だよ。」
医師は恐怖に顔をゆがめ、そして後ずさりをしてドアに近づきながら言った。
「キリモミ君、ちょ、ちょっとそれは安全なものなのかな?」
キリモミ君は平然と答えた。
「中身が何なのかは僕は知らないよ。ウズラちゃんの宝物なんだからね。おじさん、気になる?」
医師は顔を横に振って、一生懸命に笑顔を作りながら後ろ手でドアノブをつかんだ。そして、
「いいかな? キリモミ君、ここにじっとしていなくちゃダメだよ。すぐに戻って来るからね。」
と言い放ち、走って出ていってしまったのである。
『かの有名な金持ち』の老人は、部屋の片隅で車イスに埋まるように深く腰かけ、何も言わず、固まったようにじっとしていた。
 ウズラちゃんは目の前に突然現れたキリモミ君を見て、なんと、はじめて表情に変化を見せたのである。それも劇的な変化だった。今まで周囲に無反応だったウズラちゃんの顔に喜びの表情が生まれ、その目には嬉しさで涙が溢れてきていた。そして、キリモミ君がそばに近づくと、ウズラちゃんは両腕を広げ、キリモミ君をしっかりと抱きしめたのである。だが哀しいことに・・・ウズラちゃんは声を出せなくなってしまっていたのだ。ウズラちゃんはどうしていいか自分でも分からないようで、ただただ、泣き続けたのである。キリモミ君はウズラちゃんの様子が落ち着くと、大きく息を吐き出した。キリモミ君は、ウズラちゃんと『かの有名な金持ち』を前にした、今この場所で、最後の決着をつける気持ちでいたのである。
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