館の秘密

 キリモミ君のボロ服のポケットの中で、ネズミのチューは不安な気持ちになっていた。というのも、この館には物珍しいものがありとあらゆるところに溢れかえっており、キリモミ君の性格を熟知していたチューにとって、キリモミ君が寄り道をせずに最上階の部屋へ直行するとはとても考えられなかったからである。案の定、キリモミ君は先程から通り過ぎる部屋のドアというドアは必ず開け、金銀財宝に歓声を上げ、壁の絵にはわかったような批評をたれ、そうかと思うと廊下に立っている甲冑の剣を抜き取ってみたり、大理石のトラにまたがってみたりと、やりたい放題なのであった。チューはポケットの中から顔を出し、キリモミ君に忠告をした。
「ねえ、キリモミ君、ちょっと寄り道が多過ぎるんじゃないの? 僕たちの目的はウズラちゃんの手元にタイムカプセルを届ける事なんだよ。それを忘れてはいないだろうね?」
キリモミ君はそんなチューの忠告なんぞには「はいはい」と調子のいい返事を返しているばかりで、一向に気にしている様子はなく、今度はエジプトファラオの黄金の棺のふたを開けてのぞき込んでいた。そして、ふん、と鼻を鳴らしてチューに言ったのである。
「な〜んだ、見てご覧よ、チュー。からっぽさ。」
チューは堪忍袋の緒が切れて叫んだ。
「いい加減にしなよ! そんなものを触っていたら怒られるよ!」
その時である、突然、廊下を走ってくる従者たちの足音が聞こえ、思わず、キリモミ君は棺の中に入って隠れてしまったのだ。走ってきた二人の従者はキリモミ君が隠れている棺の前まで来ると、息を切らして立ち止まり、そして、そこにキリモミ君が隠れていることも知らずにこんな話を始めたのである。
「この広い館の中だ。あのキリモミ君がどこで迷子になっているかなんて、分かるわけがない。」
「もう少しでも人手があればなあ。六人じゃとても無理だ。そうそう、あの二人はいつになったら戻るんだ?」
「分からないよ。かなり難しい仕事らしいからな。」
「お前、なにか知っているのか? あの二人が任されたっていう仕事の内容。」
「いいや。兄貴なら何か知っているだろうと思って聞き出そうとしてみたけど、本当に何も聞かされていないらしい。ただ、確かな話じゃないが、今の状況から推測すれば、旦那様の跡継ぎの件じゃないかと・・・。」
「見つかったのか? あの旦那様の娘さんが? もうこの世にはいないっていう噂も聞いたぞ。」
「しぃっ! 声が大きいぞ。違うんだよ。あの娘さんはこの家を継がずに外の男と結婚して旦那様から勘当されたんだよ。だけど、旦那様はとっくの昔に娘さんの事は許しているんだ。話は複雑なんだ。娘さん夫婦は表に出てこれない理由があるんだよ。」
「・・・初めて聞く話ばかりだ。」
「繰り返すけど、確かな話じゃない。これは、ずっと隠されていた秘密なんだ。・・・あのウズラちゃんっていう女の子は旦那様と何らかの血のつながりがあるらしい。旦那様の娘さんが出てこれないとなると、すべての財産はあのウズラちゃんに受け継がれることになる可能性があるとか・・・。」
「知らなかった・・・。なるほど、だからここまであの子に親身になるのか。あの爆発事故からずっと、旦那様は片時もウズラちゃんのそばを離れない。」
「俺もずっと疑問に思っていたんだよ。兄貴から聞いてすべてが納得いった。だけど・・・」
「何だ?」
「いや、もうこの話はやめよう。いずれもうすぐすべてが明らかになる。それより、早くキリモミ君を捜さないと。」
二人の従者は再び走って行った。

黄金の棺のふたが開き、中からキリモミ君が顔を出した。キリモミ君はチューに言った。
「確かにプロトタイプのあいつが言っていたことは本当かもね。チュー、僕もすべての大人は信用できないって、そういう気分になってきたよ。どうしてみんなは黙っていたんだろう。信じられないよ。」

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