八人の従者(三)・・・残りの二人

 整備工の男が青い顔で走ってくるのを最初に見つけたのは従者の一人でもある料理人だった。料理人は別の昆虫車に乗って、丁度食材の調達から戻ってきたところで、整備工の男とばったり出くわしたのである。
彼の表情から何かただ事ではない事態であることを察した料理人は、彼の肩を大きな手でしっかりとつかみ、落ち着かせようとした。整備工はやっとのことで言葉をしぼり出した。
「爆弾! 爆弾だ。大変だ、みんなを避難させなくちゃ! 大変なものを見つけちまったんだ!」
騒ぎに気づいて従者長とその弟も駆けつけて来た。整備工から話の顛末を聞いた従者長は、いつものように冷静に判断を下した。まず、第一に、その青い金属製の箱が、本当に爆発物であるのか、現時点では確認できていないこと。整備工の話からすれば、爆発物である可能性もゼロではないが、爆発物であるという確証もないのである。まずは従者長は弟を『かの有名な金持ち』の老人のもとに事態の連絡に走らせた。しばらくして彼は会計士でもある別の従者とともに戻ってきた。そして首を横に振って言った。
「旦那様は心配でお嬢さんのそばから離れたくない、と言っている。医師は医師で、この状態で自分の持ち場を離れることは出来ないと・・・。」
従者長は予想どおり、といった表情をした。「さ〜て」と従者長は言った。
「誰が、その箱を調べに行くか、ということだが・・・」
全員が瞬間的に目を伏せた。従者長はそんな周囲の様子を見て最初に言った。
「俺は今日は歯が痛い。」
弟は兄の言葉に呆気にとられた。慌てたように会計士は叫んだ。
「私は今日中に帳簿をまとめないと税務署から監査が・・・。」
それにつられて料理人も口走った。
「いけない、いけないこれから夕食の仕込みがあるんでね。」
整備士と従者長の弟は顔を見合わせた。

そんな話をしている丁度その時、キリモミ君は『かの有名な金持ち』の館の裏にようやくたどりついた。
ずっと歩き通しだったキリモミ君にとって、この美しい庭園のような町で少しは一服したい所ではあったが、しかし、今のキリモミ君には重大な仕事があったのである。そう、一刻も早く、あのウズラちゃんのタイムカプセルを探し出さなくてはならなかったのだ。
まさか館の玄関前で、『かの有名な金持ち』の八人の従者のうちの五人が集まって喧々囂々の議論をしているなんてことを知らないキリモミ君は、車庫の裏手へと回り、僅かに開いたシャッターの隙間から中にもぐり込んでしまったのである。車庫の中には六台の昆虫車が停められていた。キリモミ君はポケットの中のチューの耳を引っ張りながら言った。
「さあ、チュー、どの車から調べようか? 大仕事だよ。」
だが、そう言ったキリモミ君は、自分の目を疑ってしまいたくなるような光景を目の当たりにしたのである。なんと捜すまでもなく、ウズラちゃんのタイムカプセル・・・あの金属製の青い箱は、すぐ目の前の地面の上に置いてあったのだ。

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