みんなの代表(二)

 表彰したいくらいに乗り心地の悪いトラックのシートの上で、キリモミ君は車が大きく振動するたびに天井に頭をぶつけ、その度に目を白黒させていた。そんな中、ネズミのチューはポケットからひょっこりと顔を出し、渋い顔でキリモミ君に言った。
「全く君は行動が無計画で困るよ。僕たちは置き忘れてしまったウズラちゃんのタイムカプセルを探していたんだよ。せっかく丘の近くにまで行ったんだから、何より先にチンザ君の周りを調べてみれば良かったのに!」
それを言われてキリモミ君はやっと思い出したのだった。そう、自分たちには大切な目的があったのだ。しかし、時はすでに遅かった。とんでもない厄介なお荷物をかかえて、心底うんざりしていたトラックの運ちゃんは、早いところこの薄汚い腹話術人形を町まで連れて行って放り出し、厄介払いしてしまおうと躍起になって飛ばしに飛ばしていたのだった。そして、・・・実際に待つ間もなく、巨大なトラックは『大いなる機械』を核に形成されたあの町に、あっという間に到着してしまったのであった。
運ちゃんは嬉しそうに叫んだ。
「ボウズ! 着いたぞ。あとはお前の気の済むようにやればいいさ。あばよっ!」

 調べてみれば、町は『みんなの代表』だらけだった。各町会には『みんなの代表』と自称する町会長がひしめき合い、町にはそれぞれ『みんなの代表』と胸を張る議員が散らばって、さらに市役所には『みんなの代表』という市長が革張りの椅子の上に、はち切れんばかりのスーツを身にまとってふんぞりかえっていたのだ。だが、おどろいたことにそれだけにはとどまらず、この町には『みんなの代表』と呼ばれる県の議員もいれば、県知事もおり、さらには国会の議員もいて、もう『みんなの代表』だらけだったのである。そして、不思議なことにこれらの『みんなの代表』は、どいつもこいつもうまくいった事はすべて自分の手柄にしたがるくせに、ばれた悪事はすべて秘書がやったことになるのであった。そして、キリモミ君にとって何より理解できなかったのは、町の人々は、どの『みんなの代表』も本当のところは信用しておらず、『みんなの代表』なんてやる奴は、どいつもこいつも腹黒いし胡散臭(うさんくさ)いと思っていることだったのだ。
丘の上を縦断する巨大道路の建設についても、町のみんなは本当のところ、あんな丘に道路が通ったところで、何の利用価値もないと最初からわかっていたのだった。ならば、なぜ? そういうキリモミ君の問いかけに誰もが言葉を濁し、黙り込んでしまった。キリモミ君は町のど真ん中で、とうとう訳が分からなくなり、ポケットの中のチューの耳を引っ張ると、鼻を鳴らしながらこう叫んだのだった。
「ねえ、チュー、僕にはさっぱり訳が分からないよ。どうして『みんなの代表』はみんなから信用されていないのに、『みんなの代表』になれるのかな? どうして『みんなの代表』はみんなの望んでいないことを強行しようとしているの? それに、・・・どうしてみんなはそんな『みんなの代表』が強引に押し進めることを、ただ諦めた顔で傍観するだけなんだろう? ねえチュー、一体全体、僕にはわからないことだらけだよ!」
チューは再び、観念した。こんな町のど真ん中でこんな発言をしては・・・。もう、どこかのゴミバケツに放り込まれるだけの問題では済まされないかもしれない。・・・ところが、・・・意外なことに何も起こらなかった。『みんなの代表』を自認する面々はバツが悪そうにそそくさと立ち去り、町の人々はキリモミ君の発言に何かを感じたものの、それを顔には出せないでいた。町の往来はキリモミ君の発言に一瞬凍りついたように見えたものの、次の瞬間には何事も無かったかのように再び動かざるを得なかったのである。たが、往来の中、一人の男が拍手をしてキリモミ君に近づいていくのが見え、町の人々は自分の心にかけた鍵が今にもこじ開けられてしまうのかといった焦りを一瞬、誰もが感じたのである。男はあのトラックの運ちゃんだった。はち切れんばかりの笑顔をキリモミ君に向け、肩に手をかけた。
「よく言ったぞ、ボウズ! ますます気に入った。大したもんだよ!」

 巨大なトラックは再び丘に向かって走り出した。ただ、荷台に載っていたはずの巨大な重機の姿はなぜか見えなかった。運ちゃんは鼻歌を口ずさみながら、助手席に座る薄汚い腹話術人形にチラッと目をやって顔をほころばせた。そして、一瞬、明日から何をやって飯を食っていこうかという不安が心にわずかな影を落としたが、「まあ、何とかなるだろう。なるようになるし、なるようにしかならない」と思ったのだった。



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