無免許運転?(二)

 急発進する車の音に気づいて屋敷の窓から顔をのぞかせた従者は慌てふためいた。何と、運転席でハンドルを握っているのは、あの腹話術人形のキリモミ君ではないか! 彼はすぐさま駆け出して、ひんやりとした車庫の中でしばしの休息をしていた別の昆虫車に飛び乗ると、キリモミ君を追って走り出したのである。彼からの連絡を受けた他の従者達も事態に気がつき、ウズラちゃんの看病で持ち場を離れられない数名以外の従者もそれぞれに昆虫車に飛び乗ってさらにあとに続いた。
 当のキリモミ君は、といえば初めての運転とは思えない自分のハンドルさばきに内心自分でもびっくりしながら丘を走り抜けていた。ポケットの中のチューは・・・といえばいよいよ自分の命の尽きるときが来たかと思ってすっかり観念していたのである。
背後から『かの有名な金持ち』の従者達が運転する昆虫車が迫ってきていた。その車を運転していた従者は眉間にしわを寄せてつぶやいた。
「このままではまずいな、・・・追いつくよりも先に敷地の外に出てしまうぞ。」
そうなのだ。今迄走ってきた道はすべて『かの有名な金持ち』の広大な敷地内だったのでキリモミ君の暴走も法律上は問題なかったのであるが、もしこのまま敷地の外に出てしまえば・・・、
「無免許運転、・・・スピード違反・・・」
従者は邪念を振り払うように首を大きく横に振り、運転に集中した。
もう少しであった。キリモミ君の運転する車まで五十メートル以内のところまで詰めていた。しかし、同時にこのまま直進すれば、あとわずかで敷地外に出てしまう。すると、目の前のキリモミ君の昆虫車が急ブレーキをかけた。後に続いていた従者達の車も慌ててブレーキを踏み、・・・停車した。
従者の悪い予感は的中してしまった。運が悪いことに『かの有名な金持ち』の敷地を出たすぐのところで警官達が取り締まりをやっていたのである。
一般公道に入って走行してしまったキリモミ君は『無免許運転』および『スピード違反』、そして『シートベルト不着用』、さらには『車を盗んだ』容疑で署まで連行されてしまったのであった。
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