無免許運転?(一)

 キリモミ君は『かの有名な金持ち』の従者達からウズラちゃんの今の状態を聞かされ、かと言って何をどうすることも出来ない自分を不甲斐なく思った。が、すぐに気を取り直し、ポケットの中のチューとともに、まずはあの青い箱を捜すべく屋敷を出発したのだ。
しかし、ネズミのチューは全く何も考えずに歩き出したキリモミ君に対して、ポケットの中から顔を出し、意見をしたのである。
「君はあの青い箱をどこに置いてきたのか分かって歩いているの? ただ、やたらに歩けば見つかるってものじゃないと思うけど・・・。」
キリモミ君はチューに意見されたのがたいそう気に入らなかったようで、鼻を鳴らしながらこう言ったのだ。
「そういうけど、どこに置いてきたのか、チューだって覚えていないんじゃないか!」
チューはキリモミ君をなだめるような声になって言った。
「そうだよ。だけど、どこに置いてきたのか、まず考えてから出発したほうがいいと思ったってことさ。」
キリモミ君はさらに鼻を鳴らして言った。
「チュー、なんかお前はあのプロトタイプと言うことが似てきたね!」
チューはそんな言葉など意に介さずポケットの中で考え始めたのであった。
「あの丘の上までは確かに手元にあったんだよ。だけど、あの建物と建物の隙間に入っていったときにはすでに手には持っていなかったんだ・・・ってことは・・・」
そんなチューにキリモミ君はイライラしたように言った。
「ってことは、どこにあるのさ!」
チューはあきれたような顔になってキリモミ君に言った。
「君は全く、何も考えないんだね。丘の上に忘れてきちゃったか、あの従者の人の運転する車の中に置いたままになっているかのどっちかだよ。」
キリモミ君はすでに歩き出しながら叫んだ。
「じゃ急ごう! 丘の上までは夕方までに着かなくちゃ!」
チューはさらにあきれたような声で言った。
「丘に行くより先に、車の中を調べるほうが先だと思うよ。だって、車はすぐそこにあるんだからね。」
キリモミ君はなお一層大きく鼻を鳴らして叫んだ。
「僕もそう思ったところさ!」
しかし、このことがとんでもない事態を引き起こすことになってしまったのである。
屋敷の前の車寄せに止まっていた昆虫車に乗り込んだキリモミ君とチューはそこに青い箱があるかどうか捜し回ったのだが・・・どうも見つからない。しかし、チューはこの形の車が全部で八台あることに気がついたのである。つまり、この車であったとは限らないのだ。次の車を捜してみなければ、と思ってキリモミ君の方を振り返ってみると、キリモミ君は青い箱を捜すことなどすでにすっかり忘れてしまっていて、運転席にちゃっかり座り込み、ハンドルに手をかけていたのである。チューは慌てて言った。
「キリモミ君! 何をやってるの! だめだよ、勝手にそんなところに入っちゃ!」
しかし、残念ながらこういう状況のキリモミ君がチューの言葉を聞き入れたことは今の今まで一度もなかったのである。キリモミ君は目を輝かせ、キーに手を伸ばそうとしていた。
「かっこいいよね! 前から一度でいいから自分で運転してみたいと思っていたんだ。運転の仕方もしっかり見てたから大丈夫さ。たしか、ここをこんなふうにするんだよね、チュー。」
昆虫車は車体を大きく震わせると、タイヤはまるで怪鳥の鳴き声の如き音を響かせて、猛スピードで発進したのだ。
車はあっという間に木々の間をすり抜けて、町へと向かって突進したのである。



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