長い夜が明けて・・・

 未明の大爆発は多くの謎に包まれていた。『大いなる機械』の心臓部とも言えるその場所で、あんな時刻に一体何が行われていたのか、町の誰にもわからなかったのである。ニュースの発表によれば生存者は一人もいない、ということだった。犠牲者の人数は発表されたがその中には数人の身元不明者が入っている、という情報が流れたことで、さまざまな憶測を呼んだ。が、結局そのどれもが単なる推測の域を出なかったのだ。突然破られた日常のリズムに町は混乱をきたすかと思われたが、人々はやはり朝になれば仕事に出掛けていったのである。ただ、いつもとちょっと違うのは、かなり多くの人々が爆発事故現場の復旧の仕事に派遣されたということだけだった。

 一方、ウズラちゃんはそんな町のリズムとはまったく違う闇の中を未だに漂っていたのである。

 『かの有名な金持ち』の老人は、ベッドに横たわったまま意識の戻らないウズラちゃんを前に、ただ無言でうつむいていた。八人の従者の中の一人である医師の男が聴診器を耳から外し、大きなため息をついた。
「この身体で今まで倒れなかったのが不思議、と言うべきでしょう。雨に濡れ、睡眠も食事もとらず・・・。それにもましてこの子が受けた精神的なショックは計り知れません。大人でもはたして耐えられたでしょうか? ・・・出来うるかぎりの努力はします、が・・・戻って来れるかどうかは・・・」
『かの有名な金持ち』は車椅子を窓辺へと動かし、既に南に昇った太陽の光に輝いている木の葉の波を見た。静かだった。あまりにも静かだった。こんなことがあっていいのか、・・・老人は拳に力を込めて車椅子の肘掛けを叩いた。しかし、風は相変わらず木々の間をすり抜けて、ゆっくりと・・・ただ丘を滑り降りていくだけだった。

 そんな時、屋敷の別室にいたキリモミ君が目を覚ました。ポケットの中で動き回るチューの気配を感じて、あのとてつもない闇の中から戻ってこれたことを実感したキリモミ君だったが、その時、ふとあることに気がついたのである。そうだ、あの青い箱・・・ウズラちゃんのタイムカプセル! あれをどこかに置き忘れてきてしまったのだ。キリモミ君はポケットの中のチューの耳を引っ張りながら言った。
「のんびりしている場合じゃないや! チュー!出掛けるよ!」



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