古びた映像の光と影に・・・(五)

 カメラに向かってウズラちゃんのお父さんが話していた。
「ウズラ、理解するまで時間がかかるかもしれない。だが、これだけはわかってくれ。深く考えた末に、これが一番の選択肢だと悟ったんだ。だから、この計画に乗ることにした。」
お母さんも泣いているようだった。
「私は前澤教授の言っていることを理解できなかった。私は自分が持っている力、才能を誇りに思っていたし、単純な話、それを褒めてくれる人、必要としてくれる人がいれば嬉しかったんだ。ましてやそれが莫大な利益を生み、世界でも有数の金持ちになれるということになれば、ね。前澤教授は『出来ることよりすべきことをやれ』と言った。だが、私は若すぎた。私は自分が持てる力で悪魔の心臓を作り出してしまったのだ。あれほど大きな犠牲を目の前にして、やっと自分の力が利用されているにすぎないことを悟ったんだよ。
こんな私を救い出してくれたのは前澤教授の息子さんだ。彼からの提案を受け入れ、私たちはこの世の中から存在を消してもらうことにした。名前も捨てる。そして、私たちを捜して追ってくる人間達から逃れるために、町の多くの人々が協力してくれて、私たち二人に関する全ての情報、記録を消去したのだ。名前、顔、声、指紋、書いた文字。何も、何ひとつも残っていないはずだ。」

* * *

 その頃、『大いなる機械』の心臓部の部屋では自白装置に固定された用務員のおじさんと黒服の男、そして廃人のようになってしまった二代目饅久が向き合っていた。
「参ったよ。本当に手も足も出なかった。あの二人を捜索しようにも何一つ情報が無いんだ。顔が写っている写真も一枚も無い。似顔絵を作ってはみたが、ある者が『似てる』と言った似顔絵が、別の人間に見せると『まるで似ていない。面影もない。』と言う。あの二人は人々の心の中には存在するが、実体として本当に存在したのか? という人間まで現れる始末だ。・・・だがな、数カ月前、こいつが我々の目の前に現れて状況は一変したんだ。」
黒服の男は、よだれを垂らしながら車椅子に座っている、うつろな目の男を見た。
「私が社長の饅久です。饅頭の饅に永久の久。」
黒服の男は続けた。
「こいつが一時期社長の座にいたとかいう人形工房に、一年ほど前、技術者らしき夫婦が訪ねて来たそうだ。目的はたまたま知りあいになったこいつの親父の人形職人の技術をロボットの形で再現する、ってなことだったようだが。こいつはいろいろあってそこを追放されたらしいな。そして、食うに困ったんだろう。我々の前に情報を売りたい、といって現れた。最初は相手にしなかったが、話を聞いて驚いた。どうやら、その技術者夫婦は我々が八年前から探していたあの二人に間違いないようだ。さらに、こいつはその夫婦が何か秘密の部品をその人形工房で、ある物の内部に入れたらしい、というじゃないか。」
黒服の男はそこで嘲るように笑った。
「ところが、こいつ、我々がその話に異常なほど興味を示したのを見て、いい気になっちまったんだな。」
うつろな目をした車椅子の男は、か細い声でつぶやき続けていた。
「私が・・・社長の・・・、饅久です・・・饅頭の饅に・・・永久の・・・」



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