古びた映像の光と影に・・・(四)

 その頃、プロトタイプは柔らかな雨の中を濡れながら歩いていた。だんだんと町に近づくにつれ彼の足は速くなっていった。彼はポケットの中のシロネズミに言った。
「ここで捕まったら何の意味もなくなっちゃうよ。一つ目の役割は無事、果たしたんだからね。」

 この闇夜の中で、町は完全に休息しているように見えた。だが、町の人々は深い眠りにつけなかったのである。胸が、苦しかった。心の底にしまい込んだはずの記憶が何故か今夜は鍵を破ってわき出すような、そんな予感にさいなまれていたのである。

 『大いなる機械』の心臓部の部屋では黒服の男の話が続いていた。
「信じられないような話だ。あの二人の記録が全く残っていないなんて。戸籍、写真はおろか、映像、音声、何ひとつ残っていない・・・信じられなかった。何しろ、名前すら、記録としては残っていなかったんだからな。この八年間というもの、我々はどうすることも出来なかったんだよ。」

 一方、丘の上ではあまりにショッキングな映像を見せられてしまったウズラちゃんの具合がおかしくなってきてしまったのだ。
「どうして、あの用務員のおじさんが、私のお父さんとお母さんを連れていったの? それに・・・私の家を踏みつぶしたのも『大いなる機械』じゃなくおじさんだったなんて。」
映像は続いていた。踏みつぶされた家の残骸は全てダンプカーに載せられ、運び出されていく・・・。用務員のおじさんを合わせて十人程度の人物が協力しているようだった。と、・・・突然画面が少し乱れたかと思うと、場面は変わって・・・丘の上になった。そう、上映が行われている、まさにこの場所だった。ウズラちゃんは「あっ」と小さく叫んだ。画面には二人の人物がカメラを直視するように座っていた。やはり顔の部分にノイズが入り、不鮮明であったが・・・ウズラちゃんにはそれが自分のお父さんとお母さんだと、はっきりわかったのである。
「お父さん、・・・お母さん・・・。」
ウズラちゃんはさらに大きな涙を流した。
「ウズラ、許してくれ・・・。」
ウズラちゃんは涙で溢れた目を大きく見開いて画面を見つめた。声にも変調がかかっていて、お父さんの声そのものではなかったがその抑揚や話し方は紛れもなく、ウズラちゃんのお父さんの声だった。
「ウズラ、これは全て、私たちが望んだことだ。」


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