古びた映像の光と影に・・・(三)

 車椅子に乗った、うつろな目の男は、まだ繰り返していた。
「私が社長の饅久(まんきゅう)です。饅頭(まんじゅう)の饅に永久の久・・・。」
用務員のおじさんは驚いた。
「まさか、・・・あの人形工房の二代目の?」
男はよだれを垂らしながら繰り返した。
「私が社長の饅久(まんきゅう)です。饅頭(まんじゅう)の饅に永久の久・・・。」
そんな様子を見ていた黒服の男が口を挟んだ。
「悲しいな。なあ、悲しいよ。親父は一流の職人だったのに息子は、このザマだ。才能の無い二代目は悲劇だよ。いや、喜劇か? まあ、どっちでもいいが、どこかにも似たような男がいたじゃないか。」
用務員のおじさんは男の目を睨んだ。
黒服の男は薄笑いを浮かべて続けた。
「確かにあんたの親父さんはなかなかの立派な教授だったよ。頑固なところも超一流だったしね。だがあんたが親父さんから受け継いだのは、その頑固なところだけだな。」
用務員のおじさんは黙っていた。男はさらに続けた。
「だが、八年前のあんたの活躍は素晴らしかったよ。我々もつい最近まで全く動けなかったんだからな。信じられないことをやってのけたよ。大したもんだ。あのウズラとかいう女の子の両親の記録という記録を全て消す、なんて、今考えたって信じられないよ。」

 その頃、丘の上で、チンザ君が再生する映像を見ていたウズラちゃんとキリモミ君は、目の前の信じられない映像をただ、ぼう然と見つめていた。
八年前の映像が続いていた。それはさらにショッキングな映像だったのだ。
目の前にはウズラちゃんの生まれ育った家があった。そこに一台の巨大な重機が入り込んできた。重機は鋼鉄の腕で屋根をむしり取り、キャタピラで壁を押し倒し、踏みつぶした。
ウズラちゃんは目から大粒の涙を流し、叫んだ。
「もう止めて! ・・・ひどすぎる・・・。」
しかし、いったん始まった上映は途中で止められなかった。ウズラちゃんの心まで踏みつぶすような残酷な映像はもう誰にも止めることが出来なかったのである。
やがて重機は完全にウズラちゃんの家を踏みつぶした。
そして、さらに信じられないことには、その重機の運転席で操縦していたその人物は、・・・用務員のおじさんだったのである。
ウズラちゃんは叫んだ。
「信じられない・・・。なぜ? おじさん、・・・どうして? どうしてそんなひどいことをおじさんが!」

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