丘の上での衝突

 まるで墓場のような丘の上で、チンザ君は静かな雨にうたれ、じっと目を閉じていた。灰色の肌はがさついていて、所々に細かな亀裂も入っていた。外見はどう見てもお地蔵様のチンザ君の前には、とうの昔に干からびた花や果物が供えてあった。
ウズラちゃんはチンザ君に向かって話しかけてみた。が、しかし・・・何度話しかけても叩いたりしてみても、チンザ君は微動だにせず、目も開けなければ何の返事もなかった。ここに来て再び一行は行き詰まってしまったのである。
「あーあ、ここまで・・・か。」
プロトタイプはため息をついた。
「用務員のおじさんはやつらに捕まっちゃった。タイムカプセルは二つ出てきちゃうし、そのどちらも開けることすら出来ない。頼みの綱だと思っていたチンザ君は全く返事なしさ。この様子じゃチンザ君は壊れちゃったのかもしれないよ。だいぶボロみたいだしね。本当にお地蔵様になって余生を送る気になったんじゃないのかな。」
ボロと聞いてキリモミ君はカチンときたようだった。
「なんだい! さっきから聞いてれば偉そうなことばかり言いやがって! ボロのどこがいけないのさ! 確かに外見はボロかもしれないよ。だけど、ついこの前まではちゃんと動いてたんだぞ。なんだい、熟練の職人の手作りだかなんだか知らないけれど、ちょっとばかしこぎれいな格好して、ちょっとばかし頭がいいからって、自分ばかりが偉いつもりかい! いやならさっさと帰っちまえよ!」
ウズラちゃんは二人の様子に、ただオロオロするばかりだった。プロトタイプは「ふんっ」と鼻を鳴らして言った。
「これ以上つき合いきれないね。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。」
プロトタイプは持っていたタイムカプセルを投げ出して去って行った。キリモミ君はポケットの中のチューの耳を引っ張りながら言った。
「誰もつき合ってくれなんて頼んじゃいないさ! あいつ、自分の身が危ないから仕方なしにくっついて来たくせに、恩着せがましいこと言っちゃってさ。」
ウズラちゃんは、それでもプロトタイプが心配なようだった。
キリモミ君はせいせいした顔で、プロトタイプが投げ出していったタイムカプセルを拾い上げた。ウズラちゃんも脇に抱えていたもう一つの青い箱をシャツの袖でぬぐった。柔らかな雨だったが、すっかり濡れてしまっていたのだ。ウズラちゃんは急に寒気を感じて、ブルッと小さな身体を震わせた。
すると、いままで全く動く気配を見せなかったチンザ君が突然目を開き、こう言ったのだ。
「二つの箱の違いがわかる? どこから見ても同じ形の二つの箱だけど、底に刻まれている溝の数と方向に違いがあるんだよ。俺の台座にある賽銭箱にあてはめてごらん。どちらか片方はぴったり入るけど、もう一つは入らないはずだ。入らないほうが君の心の中にある思い出のタイムカプセル、入るほうはちょっと昔にあの町であった出来事の記録で、俺が再生して見せてあげることが出来る。どうする? ウズラちゃん次第だ。今からなら夜明けまでに全部再生できるけどね・・・最初に言っとくが、決して楽しい内容じゃないんだよ。悪夢のような内容かもしれない。知らなくてもいいことまで知ることになるかもしれない。」
ウズラちゃんはハッキリとした口調で言った
「覚悟は出来てるわ。それを見なければ、いつまでたってもこの闇から抜け出せないような気がするのよ。」

 丘はまだ深い闇に包まれていた。キリモミ君とウズラちゃんはチンザ君の賽銭箱に青い金属製の箱をセットした。かすかな作動音、・・・やがてチンザ君は目を大きく見開いた。彼の瞳から放たれた光は、まるで映写機のように少し離れたところにあるコンクリートの壁の残骸に古びた映像を結んだのである。
そして、それは確かにこの町の人々が心の底に封印した過去の出来事だった。
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