闇夜に浮かんで・・・

 夜空に浮かんだキリモミ君達は、ゆっくり、ゆっくりと北の方角に向かっていた。依然として月は厚い雲にさえぎられていて・・・町のあかりと、わずかな星の光の中を漂っていた。今、町に降りるのは非常に危険だったので、キリモミ君達はとりあえず人気(ひとけ)の無いところまでこのまま飛んで行こうと考えていた。

 静かだった・・・。闇夜の中に浮かびながら、誰も何もしゃべらなかった。もっとも、空を飛ぶ、という今まで体験したことの無い感覚にすっかり酔ってしまっていたから、ということもある。が、しかし、プロトタイプだけは何かずっと考え続けていた。彼の頭の中ではキリモミ君とウズラちゃんから聞いた、これまでの話が渦巻いていたのだ。
ウズラちゃんが言った
「どこまで飛んで行ってしまうのかしら・・・。」
方角としては町の北側に位置している丘に向かって流されているようだった。
やがて、プロトタイプが口を開いた。
「僕はずっと考えていたんだ。ウズラちゃんの両親が姿を消したときの状況は、現在の『大いなる機械』のやつらの行動から察すると、かなり緊迫した状態だったんだよ。そんな状況の場合、何より一番大切なことを最初にやろうとすると思うんだけど、違うかな?」
キリモミ君はキザで頭のいいプロトタイプが気に入らなかったので鼻を鳴らして言った。
「一体、何を言いたいのかさっぱりわからないや。」
「君は黙ってろよ。『丘の上のチンザ君』のことを言っているのさ。彼の役割だけハッキリしない・・・。なぜだと思う? 彼はウズラちゃんの両親が八年前にこの町を脱出してから最初に作った装置(マシーン)なんだろ? なのにただ、ずっと町の変化を見つめているだけなんて・・・そんなこと、あるだろうか?」
「・・・。」
「きっと、チンザ君には何か別の役割があるんだよ。重要な・・・何か・・・。」

 しばらくすると、空の厚い雲からは柔らかな雨が降ってきて・・・鼻ちょうちんの風船は一つ、一つと割れていき、キリモミ君達は次第に降下を始めていって、ゆっくり、ゆっくりとあの丘の上に着陸したのだった。



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