闇の中へ・・・

 ウズラちゃんは目の前に置かれた二つの青い金属製の箱を見て、じっと考え込んでいた。
すでに時刻は夕暮れを過ぎ、気がつくと夜になっていた。一行は月の青い光の中で、どうするべきかさえ、見つけることが出来なかったのである。
ウズラちゃんは父親と八年前に交わした約束・・・そのタイムカプセルは大人になるまで開けてはいけないということ・・・を守りたかった。しかし、このタイムカプセルの存在がいつかは誰かに知られ、奪われてしまうことも充分に考えられるのである。
とうとうウズラちゃんは言った。
「用務員のおじさんに相談するわ。」
「僕は反対だね。」
プロトタイプが言った。
「全ての大人は信用ならない。これが僕の持論さ。利用されてしまうだけだよ。」
そうは言ってもキリモミ君達の置かれている状況は厳しかった。この隙間の中にいる間はどうにか自由に動けるものの、一歩町の中へと出ていけば、すぐに何者かによって捕らえられてしまうであろうことは分かり切っていた。そこで、とりあえず、チューが町の中へ偵察に行くことになったのだ。

 夜の町。用務員のおじさんは、人気(ひとけ)のない公園のベンチでじっとうつむいていた。チューはその姿を見て、そっと近づいていったのである。そのチューの姿に気がついておじさんはふと顔を上げた。そのときだ。突然数台の車が公園に乗り込んで来たかと思うと、十人近い人物が車から出てきて用務員のおじさんを取り囲んだ。
一番大きな車の中にいた一人の男がおじさんの前に立ち、低い声で話しかけた。
「まだ生きてたか? 相変わらず貧乏臭い格好だな。あんたの父親を思い出すよ。」
用務員のおじさんはその男の目を睨むようにして言った。
「ずいぶんといい立場のようだね。あの貧乏学生だったおまえが・・・そんないいスーツを着ているだけでとても偉そうに見えるじゃないか。」
男は、ふん、と鼻を鳴らして言った。
「勝負する前に逃げた奴に何が言える? 負けると分かっていて勝負から逃げる。それがいつものあんたのやり方だ。勝負していれば勝ったかもしれないと思わせたいんだろうが、誰の目から見ても明らかだよ。あんたは負け犬だ。」
「本当に勝ったと思っているのか? いまだにおまえらは父の影を追っているだけじゃないか?」
「おっと、間違っちゃ困るよ。俺達が追ってるのはあんたの親父さんじゃない。あんたが手なずけているあのガキの両親だ。もっと正確に言えば・・・」
用務員のおじさんはその言葉をさえぎるように言った。
「あれは見つからないよ。・・・もうあきらめろ。あの子たちには手を出さないでくれ。」
「ずいぶん、善人ぶってるよな。・・・あんただってあのガキたちを利用してるじゃないか。」
おじさんは黙ってしまった。男は続けた。
「才能が無いって、つらいよな。俺もあんな物に関わらなければ、それなりに幸せってものを感じられる瞬間があったはずなんだ。それがどうだ。このザマだよ。俺も、あんたも、な。」
男はそう言うと、また車に乗り込んだ。おじさんを取り囲んでいる人物達の中からスカーフをしたサングラスの女とヘラヘラした感じの若い男が前に進み出て言った。
「久しぶりに話したいことが沢山出来たのよ。一緒に来てもらうわ。」
おじさんは彼らに腕をつかまれながらも、そっとチューの方に目配せをして言った。
「こんなことすれば、ウズラちゃんたちが私を探しに出てくるとでも思っているのか? 残念だが、彼らはそんな馬鹿じゃないよ。おまえらは私に何も出来ないし、したところで何も変えられないんだ。」
そして、用務員のおじさんは彼らの車に乗せられ、夜の闇へと消えていったのだった。

 急いで戻ったチューは見てきた一部始終を話した。
それを聞いてウズラちゃんは、とうとう決心したのである。
「まずはこのタイムカプセルを開けてみるわ。」
しかし、・・・それはどうやっても開けることが出来なかったのだ。二つの箱とも特殊な鍵がかかっているらしく、びくともしなかった。
すると、キリモミ君はポケットの中の錐を取り出したのである。まずは鍵穴をつついてみたりしたが、どうにもならない。しびれを切らしたキリモミ君は、かんしゃくを起こして、錐で箱に穴を開けようと試みた。
そのときだ。突然地響きのような震えを感じた一行はハッとしてお互いの顔を見つめた。聞き覚えのある太いしわがれ声だった
「・・・なぜ、それを開けたがるんだ? その箱にしまわれたものはおまえ達が捜しているようなものなんかじゃねえ。それは人々が心の底にしまい込み、鍵をかけたものだ。楽しいことばかりじゃねえんだ。封印されたものまで暴(あば)き出すことになるぞ。」

このとき本当に闇は彼らを包み込もうとしていた。青い月の光は突然、厚い雲にさえぎられ、どこまで行っても終わりが見えない闇の中の道を彼らは歩き出すことになったのである。




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