キリモミ君の冒険 その30
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救出作戦
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白い地下室の中は温度が常に一定に保たれているはずであったが、実はかなり蒸し暑かった。どこにでもあるような話だが、空調設備が故障していて一向に修理が進んでいないからなのだ。どこでもそうであるように組織というものは外部の目に触れるところはすぐに対処するものの、内部の人間にしかわからないところは実にお粗末なのである。そんなわけで地下室で働いていた人間達は、目だけでなく心までどんよりとした空気に支配されていたのだ。そして彼らはモニターの画面をただ見つめ続け、机の下では貧乏ゆすりを延々と繰り返し、プロトタイプの解体作業が始まるのを待ち続けていた。そんなとき、一瞬画像が大きく乱れたかと思うとモニター画面は完全に真っ暗になってしまったのだ。白い地下室で貧乏ゆすりをしていた面々は舌打ちをして「これは会社がケチって安いモニターにしたからだ」とか「空調設備を修理しに来た業者が間違ってブレーカーを落としたに違いない」とか口々に文句を言いあった。しかし、本当は天井裏に入り込んだネズミのチューがモニターのケーブルをかみ切ったのである。チューはさらに電気の配線も食いちぎってしまった。当然のこと、地下室は停電して真っ暗になってしまったのだ。貧乏ゆすりの面々はモニターで様子を知ることが出来なくなった上にこの暗やみだったので、しばらくの間、どうしたものかとただボンヤリしていたが、部屋の外で誰かの声がして、・・・それに耳をそばだてた。するとドアの向こうからこんな会話が聞こえてきたのである。 「あの腹話術人形は侵入した何者かによって盗み出されたらしいよ。」 「ええっ! それは一大事だよ。早く行って確かめなくては!」 その会話を聞いた貧乏ゆすりの面々は慌てて立ち上がり、懐中電灯を持って部屋の外へと飛び出した。しかし、廊下には誰の気配も無い。一瞬、首をかしげながらも一同は、あのプロトタイプを監禁していたはずの部屋へと走っていった。キリモミ君とウズラちゃんはそんな彼らの後をつけて行った。何しろキリモミ君達にはプロトタイプが どこの部屋にいるのかさえわからなかったのである。彼らがある部屋の前で立ち止まり、鍵を開け、その中へと入って行こうとしたまさにそのとき、ふたたびキリモミ君は暗やみの中で声をあげた。 「あっ、こんなところに人形があったぞ 」 その声に貧乏ゆすりの面々は振り返り、声がした方向へと走っていって、そのあたりを懐中電灯で照らし出した。そこにはキリモミ君が横たわっていたのである。そのすきにウズラちゃんは部屋の中に入り込み、プロトタイプを助け出すと暗やみの中、安全な場所に隠れてしまった。 そのころになって、ようやく停電は復旧した。貧乏ゆすりの面々は目の前の床に横たわっている腹話術人形を見て、顔を見合わせた。 「なんかこんなに汚らしい格好をしていたかな?」 「うーん、何か顔つきも品がなくなったような気がするし・・・。」 「それにちょっと臭くないか?」 言いたい放題の面々だったが、ふたたび停電に見舞われて ノそれが復旧したころには床に横たわっていたはずのキリモミ君の姿さえも消えてしまっていた。 知らせを聞いて、あの首にスカーフを巻いたサングラスの女とヘラヘラ男が駆けつけてきたが、そのころにはキリモミ君たちはすでにこの地下室を抜け出していたのだ。 |
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