イチジクの幼木

 あったりめえの関所から南に向かって進んだ先に、そのイチジクの幼木が生えていた。あったりめえのおっさんの話によると、そこは一日の間で正午前後の数分間しか太陽の光が当たらないそうなので、かわいそうなことにその幼木はひどくやせ細っていた。
 確かに八年前、このイチジクの木は切り倒されてしまったはずだった。しかし、地中の奥深くで、根は生きていたのだろう。信じられない思いでウズラちゃんは目の前のやせ細った木を見つめていた。やがて、今、立っているその場所が、かつて自分の家があった場所なのだということに気付くと同時に、そこで両親と過ごした楽しかったころの思い出が泉のように湧き出してきて・・・そうなると、もうどうしようもなく訳の分からない感情を抑えきれず、突然ウズラちゃんはしゃがみ込んだかと思うと、泣き出してしまったのだった。
そんなウズラちゃんの様子をキリモミ君とポケットの中のチューはただ、黙って見ていることしか出来なかった。ウズラちゃんがおかれている状況を考えると、下手な言葉はとてもかけられなかったのである。
 やがてウズラちゃんは涙でくしゃくしゃになった顔をキリモミ君の方に向け、小さな笑顔を作って見せた。
「ごめんね、もう気が済んだわ。さあ、あのタイムカプセルを掘り出したいの。手伝ってくれる?」

 ウズラちゃんは小さな白い手で土を掘り始めた。キリモミ君も一緒になって穴を掘ったのだが、掘りすすんでいくうちに重大なことに気がついたのである。イチジクの幼木は土の中で大きく曲がっていて、元から残っていた根はこの建物と建物の間の隙間ではなく、建物の下にあるのであった。それに気がついたウズラちゃんはがっかりしたように肩を落とし、そして、ふと考え込んでしまった。しかし、一方キリモミ君は穴を掘ることに熱中してしまっていたのだ。
「ねえ、チュー。僕は今まで錐で穴を開けることしかやったことが無かったけれど、こっちの方がずっと面白いや!」
土を掘る速度は次第にどんどんと上がっていき、タイムカプセルを探すという本来の目的をすっかり忘れたキリモミ君は、いつしかイチジクの根の下を通りすぎ、ウズラちゃんが気付いたころにはその姿さえ見えなくなっていたのである。
慌ててキリモミ君の後を追ったウズラちゃんだったが、土で真っ黒になりながら這うようにして進んで行ったそのトンネルの先で、目を疑うような、信じられない光景を目撃してしまったのだ。



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送