自転車おやじ

 一方、キリモミ君達はさらわれたプロトタイプの行方を手分けして捜していた。ウズラちゃんは用務員のおじさんと一緒に東へ向かい、キリモミ君はボロ服のポケットにネズミのチューとシロネズミを入れて西へと向かった。メスであるシロネズミが同行するというのでチューはいつになく無口だったが、キリモミ君はそんなことにはお構いなしに相変わらずの達者な口から言葉を連発していた。さらに悪いことに歩き出したキリモミ君は目の前の出来事に夢中になって、プロトタイプを捜すという本来の目的をすっかり忘れてしまっていたのである。
 キリモミ君は、さっきから何度も同じ人物が自転車で行ったりきたりしているのに気がついて興味を持って観察し始めた。どうやらその自転車に乗った中年の男は近くにある会社で結構な地位にある人物のようであった。しかし、その会社の若い社員たちが少ない人数で一生懸命に働いているのに対し、自転車おやじは仕事のふりして自転車でただ走り回ってはいるものの、本当はたいした仕事をしておらず、昼休み前に誰より早く飯を食い、昼休みの間は昼寝をし、後はただ自転車で走り回って汗を流しているだけなのだ。そして、休憩時間になると会社に戻ってきては茶菓子を食い、他の社員の前でこう言うのである。
「僕の汗を見たまえ! ああ! 忙しい! 忙しい!」
そんな様子を見ていたキリモミ君はついに我慢できずに鼻を鳴らして言った。
「ふん、なるほど、そうなのか。」
ネズミのチューはハッとしたが時はすでに遅かった。キリモミ君は自転車おやじの前に立ちはだかると、ポケットの中のチューの耳を引っ張りながらこう続けたのだ。
「ねえ、チュー。このおじさんの汗とやらのレベルの低さを見てご覧よ。おそらく何も分かっていないんだね。みんなは生活のために汗を流して働いてるっていうのに、このおじさんは自分の腹を減らすためにわざわざ汗をかいているんだ。みんなの労働の成果を、このおじさんはただ自転車で走り回っているだけで横取りしているんだよ。」
この場所でのキリモミ君の記憶はここで途絶えてしまう。本質をつかれて逆上した自転車おやじに胸ぐらをつかまれたキリモミ君は、バラバラにされたうえにゴミバケツに放り込まれてしまったのだ。

 チューとシロネズミの連絡を受けてウズラちゃんと用務員のおじさんがそこに到着したころには、すでにゴミバケツの中は空(から)だった。日頃から自転車おやじのサボり癖をにがにがしく思っていた若い社員達の協力的な証言から、どうやらキリモミ君を持ち去ったのがあの『生みの親』であることは間違いないようだった。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送