悲しき世襲

 寂れた人形工房とは対照的に隣の白い工場からはリズミカルな機械の音が響いていた。工場の中へと入って行ってみると、そこではたった一台のロボットが成型された人形の部品を型から取り出して、次から次へと組み立てているのであった。プロトタイプはウズラちゃんに言った。
「僕を作ってくれた人形職人のおじいさんが持っている技術を忠実に再現できるようにプログラムされた頭脳を持っているんだ。」
すると、ロボットは突然手を止めて話しだした。
「私が社長の饅久(まんきゅう)です。饅頭(まんじゅう)の饅に永久の久。」
キリモミ君は目を白黒させて訊いた。
「いったい何を言ってるの?」
プロトタイプはため息をつきながら答えた。
「気にすることないさ。ただのたわ言だよ。実はこのロボットを作っている最中に余計な邪魔が入ってね・・・。今はここから追放されてしまったのだけれど、おじいさんの息子で二代目を名乗っていた男がいてさ、『俺様の名前をしゃべるようにプログラムしなければ許さん!』と言ってこのロボットの作者を脅したんだ。実の息子って言うだけで何の才能も無い悲しい二代目だったよ。空威張りしているだけのね。おじいさんは自分の技術は自分の代で途絶えてもいいと思っていた。それをたまたま訪れた機械技術者の夫婦が耳にしてね、どうにかしてでもおじいさんの技術を残そうと説得してあのロボットを作ったんだ。」
ロボットは再び動きだした。次々と人形を仕上げるその様子を見ていたキリモミ君はウズラちゃんに言った。
「あのロボットを作った夫婦って、もしかして・・・。」
ウズラちゃんは黙ってうなずいた。その時、ロボットの台座の部分から別の人間の声がした。
「その通り、悲しき世襲の邪魔さえ入らなければ実に素晴らしい、完璧に近いロボットだった。まさに天才の仕事だよ。」
その声を聞いてキリモミ君とウズラちゃんはハッとした。
台座の小さな扉から油まみれの顔をのぞかせた人物は、なんと用務員のおじさんだったのである。

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