八人の従者(一)・・・整備工

  『かの有名な金持ち』の館から出てきたその男は、心持ち片脚を引きずりながら、やり切れない表情で自分の本来の持ち場である車庫へと入っていった。ウズラちゃんは目を覚ましたものの、ひと言も言葉を発しなかった。それはあまりにも大きな精神的、肉体的なショックによるものと考えられた。医師は再度頭を抱え、『かの有名な金持ち』の老人の心は更なる哀しみに潰されてしまいそうだった。そんな主(あるじ)やウズラちゃんの姿を見ていることに、彼は到底耐えられなかったのである。そもそも彼の仕事は屋敷とその町の中にあるすべての機械関係の整備だった。自分の専門分野である機械が相手なら、どんな症状でも何とかしてやれる自信はあった。だが、苦しむ小さな女の子を目の前に見ながら何も出来ないでいる自分に、彼は腹を立てていたのである。
そんなことから今日は徹底的に仕事をしてやろうと決めた整備工の男は、屋敷に隣接した車庫の中の昆虫車の一台にもぐり込み、その後部座席を取り外しにかかった。そして、その十数分後、シートの下の隙間から、青い色をした見慣れぬ金属製の箱を見つけたのである。見慣れぬ物体の発見に、彼は真っ先に悪いほうの可能性を考えた。盗聴器等の発信機か、あるいは爆発物の可能性も・・・。そんな彼の頭に先日の『大いなる機械』での爆発事故のことがよぎった。そう、あの夜、まさに彼自身がこの昆虫車を運転し、丘の上にウズラちゃんとキリモミ君を迎えに行ったのだった。そして、言われるままに『大いなる機械』の中心部に向かって車を走らせた。ウズラちゃんとキリモミ君をあの建物と建物の隙間の前で下ろして数分後、・・・その場でウズラちゃんたちを待っていたその時に、・・・あの大爆発が起きたのだ。
彼はまだ少し痛みの残る片脚をさすった。この程度の軽傷で済んだことだって奇跡的だと言われたのだ。そして、その瞬間、彼はその青い箱に関する記憶が頭に蘇ってきたのである。そうだ、この青い箱はあの夜、丘の上でウズラちゃんが抱えていたものだった。・・・そして、その後の大爆発・・・。青い箱・・・爆発・・・。彼の頭の中で渦巻いていた不安と悪い想像がこのとき完全につながってしまったのである。青い箱を持つ彼の手が震えだした。そして、彼はその箱に衝撃を与えぬよう、必死の思いで地面に置くと、脚の痛みなどすっかり忘れて館に向かって全速力で走り出したのだ。
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