黄昏の館(二)

 次の日の朝早く、ウズラちゃんは一人で起き出して出発の支度をした。といっても特に大した荷物もなかったので何をするわけでもなく、結局は眠りほうけているキリモミ君を起こすくらいしかやることがなかった。そんな気配を察したのか、『かの有名な金持ち』の老人は車椅子で近づいて来ると寂しそうな顔で言った。
「もう行ってしまうのか。・・・昨夜(ゆうべ)話したあの男からの伝言はしっかり頭に入れたね?
いいか? あの町まで君の足で歩いたら丸一日はかかるぞ。それでも自分で歩いていくというのか?」
ウズラちゃんは黙ってうなずいたが、キリモミ君は隣で「ちょっと待ってよ」と言わんばかりに鼻を鳴らした。というのも『かの有名な金持ち』の家で至れり尽くせりの一晩を過ごしたキリモミ君はすっかりここの生活が気に入ってしまっていて、どうにかここで『かの有名な金持ち』になるための修業をさせてもらおうと考えていたからだった。だがウズラちゃんのことを思うとそんなことも言っていられなかったので、キリモミ君はいますぐにでも出発しようというウズラちゃんに少々時間をもらって、この館の主(あるじ)である『かの有名な金持ち』に『かの有名な金持ち』になる方法を是非とも伝授してくれるように頼み込んだ。主(あるじ)は窓辺で大きな車椅子に体をうずめたまま「うーん」とうなった後、ゆっくりとしゃべりだした。
「そうだな、まず基本はどうでもいいことには使わないことだよ。それから使うべきときには惜しまず使うこと。そんなときにケチると『かの有名なケチ』と陰口をたたかれたうえに出した金もまず返ってこないが、惜しまず出せば『かの有名な金持ち』となれるばかりか出した金まで何倍にもなって返ってくる。そこらへんを見極めるセンスがあるか無いかで『かの有名な金持ち』になれるかどうかが決まるのだ。」
目を白黒させながら聞いていたキリモミ君は本当のところこの言葉をよく理解出来ていなかったのだが、それでも『かの有名な金持ち』になるという新たな目標を持って次の町へと旅立ったのであった。



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送