丘の上のチンザ君

 丘の上へと続く道は雑草にほとんど消されてしまう寸前で、ウズラちゃんとキリモミ君はそんな道を昼間の強い太陽を背にして登って行った。自由気ままにはびこっている雑草の中に目を凝らすと風化しかけたコンクリートの塊があちらこちらから顔を出していて、その数といったらとてもとても数えきれるようなものではなく、今ではこれがここの風景となってしまってはいるものの、それを覆い隠している雑草がなければ、まるでゴーストタウンのような所なのだ。
チンザ君はそんな丘の上の雑草の中にひとり座っていた。その姿はひどく汚れていて、この雑草の海から顔を出している無数のコンクリートの塊と区別がつかないほどだった。
キリモミ君はポケットの中のチューに言った。
「チュー、見てごらんよ。ここの景色って言ったらなんて言うかまるで墓場のようじゃないか。」
ウズラちゃんはチンザ君を一目見たときから石で出来たお地蔵さんか何かだと思っていたので、チンザ君の目が突然開いてしゃべりだしたときには本当にびっくりしてしまった。
「まさに死んだ町だ。かつてはここがこの町の中心だったなんていう話、君たちには信じられないだろう。」
そう言ったチンザ君はつぶらな目をこちらに向け、笑顔を見せた。
「やあ。用務員の彼が言っていたのは君たちのことだな。小さな女の子と腹話術人形とネズミ。俺が思い描いていたとおりだ。」
ウズラちゃんはあたりを見回しながらチンザ君に聞いた。
「用務員のおじさんはどこにいるの?」
チンザ君はやや困ったような顔になって言った。
「残念ながら、もう出て行ったよ。ひどく急いでいるようだったな。君たちのことをしきりに心配していたよ。あ、そうそう、君がウズラちゃんだね。彼から手紙を預かっているよ。」
するとなんとチンザ君の頭が突然二つに割れて中の手紙を吐き出すと、また元のようにもどってウズラちゃんに渡したのだ。あぜんとしているウズラちゃんに向かってチンザ君は言った。
「君のお父さんが俺を作ったんだよ。たいしたもんだ。もう八年近くにもなるのにどこも調子悪くならないんだからね。」
ウズラちゃんは驚いてチンザ君を見つめた。チンザ君は得意になって続けた。
「用務員の彼が俺の中身を調べたい、なんて言い出したときにはあせったよ。下手にいじくられて壊されたりでもしたら俺の一生はそこまで、だからね。」
チンザ君は丘の下に広がる町を見た。そしてつぶやくように言った。
「俺の役目はお地蔵さんのふりしてここにじっと座っていること。そしてあの町の成り行きを見守ることさ。なぜって俺がそうと決めたからだ。ひとはすぐに俺が何の役に立っているのかって聞くけれど、そんなの俺の知ったことじゃあないね。どうだい、本物のお地蔵さんだと思っただろう? それで俺は満足してるんだ。」
チンザ君は目を閉じて、それっきり黙ってしまった。
ウズラちゃんは手紙を開いた。そこに書かれているのは確かにおじさんの字だった。



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