隙間の中で          

 夜中まであったりめえのおっさんのところで時が来るのを待っていたウズラちゃんとネズミのチューは、この巨大な建物と建物の間の、ほんのわずかな隙間から見える細い線のような夜空にちょうど月が顔を出したのを見て、出発の準備を始めた。
あったりめえのおっさんは名残惜しそうな顔でそれを見ていた。
「こらウズラ!今回の酒は本当に良かった。これなら合格だ。約束どおり例の話をしてやりたかったんだが・・・。」
ウズラちゃんは小さな声で言った。
「今は急がなくちゃいけないの。チューと一緒にキリモミ君を迎えに行かなくちゃ。」
そして今度はチューが先頭になって道を案内し、ウズラちゃんはその後に続いた。
背後からはあったりめえのおっさんの歌う鼻歌が響いて来た。
太くしゃがれたその声も、進むにつれて小さくなって来る。
チューはウズラちゃんにそっと聞いた。
「例の話って何なの?」
ウズラちゃんは少し息を弾ませながら小さな声で答えた。
「私の家があった場所よ。」
チューが何の相槌も打たなかったのでウズラちゃんがさらに続けた。
「私の家があった場所は『大いなる機械』に踏みつぶされてしまったけれど・・・、どうしてもその場所を突き止めたいの。あったりめえのおっさんはここに『大いなる機械』が進出してくる前からずっとあそこにいるのよ。私の家があった場所も知っているはずだわ。」
ウズラちゃんの話もここで途切れてしまった。というのも、やがてすぐその先でこの長い長い隙間は終点となり、ウズラちゃんたちが出たところは窓に仄(ほの)かなあかりの灯る、あの電機屋の前だったのである。



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