そして次の瞬間に、ウズラちゃんとキリモミ君、そしてチューは巨大な建物と建物の間のわずかな隙間をやっとのことで歩いていたのだ。小さなウズラちゃんたちだったからこそ通れたものの、大人ならどう頑張っても片足ぐらいしか入らないような狭さだった。
キリモミ君は目を白黒させながら、先頭を歩くウズラちゃんに言った。
「一体ここはどこなの?」
ウズラちゃんは答えなかった。いや、実はこのときウズラちゃんは重要なことを答えていたのだが、あまりにも小さな声だったためにキリモミ君の耳には入らなかったのだ。
もくもくと歩き続けるウズラちゃんの後についてしばらく行くと、今まで縦に走っている一本の線にしか見えなかった前方の視界がわずかに広くなって来た。キリモミ君はそれを見て喜びの声を上げたが、そこで何者かに呼び止められてしまった。
「ちょっと待ちねえ!ここをどこだと思ってやがるんだ?」
チューはあわててキリモミ君のポケットの中に逃げ込んだ。キリモミ君がウズラちゃんの肩越しに見ると、10メートルほど先に一か所、ちょっとばかり広くなった所があって、そこにでっかいおじさんが一升瓶に囲まれるようにして寝転がっていたのだ。
キリモミ君はウズラちゃんにたずねた。
「あれは誰なの?」
ウズラちゃんは小さな声で答えた。
「『あったりめえのおっさん』よ・・・。」
『あったりめえのおっさん』は大声を張り上げた。
「あったりめえよ!ここはあったりめえの関所だ。あったりめえの事しかオイラは許さんぞ!」
そう言いながら『あったりめえのおっさん』はキリモミ君を見て目をこすった。
「おや、そいつは一体何者だ?腹話術の人形じゃねえか!」
そして、今度はウズラちゃんの方に話しかけた。
「こら、ウズラ!お前いつ腹話術なんて覚えたんだ。」
おっさんは完全に酔っ払っているようだった。ウズラちゃんは小さな声で言った。
「この腹話術人形のキリモミ君は勝手に自分でしゃべっているのよ。」
『あったりめえのおっさん』は目をパチパチさせてキリモミ君をじっと見たが突然大きな声を張り上げた。
「許さねえ!絶対に許さねえ!腹話術の人形は腹話術でしゃべるのがあったりめえなんだ!それでなければこの関所は通さねえぞ!」
ウズラちゃんは仕方なくキリモミ君を抱えて、腹話術師の格好になり、あったりめえの関所を通り抜けようとした。『あったりめえのおっさん』はキリモミ君に空になった一升瓶を押しつけて言った。
「帰りに一杯にしてきてくれ。ウズラ、この前みたいに半分水で薄めたりするなよ。」

あったりめえの関所を越えると、また、やっと通れるくらいの狭い空間がしばらく続いたが、やがて『大いなる機械』が発する独特なあの町のリズムが響いてくると同時に視界もひらけてきて、この長い長い隙間を出たところはまさに町の中心部だったのだ。



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