ボロは着てても…(一)

 北風は吹いていたが、抜けるような青空だった。
公園のジャングルジムのてっぺんで、そんな青空を見ていたキリモミ君はポツリと言った。
「何かとてつもなく長い夢を見ていたような気がするよ。」
すると、ポケットの中にいたチューは、そこから鼻の先だけ突き出して震えながら言った。
「何を言っているのさ。ねえ、どうでもいいけどもう少し風の当たらない所に行かないかい?ここは寒くてやり切れないよ。」
キリモミ君は呆れた顔でヒクヒクしているチューの鼻の先を見て言った。
「君ってやつは…、」
キリモミ君はジャングルジムから飛び降りると、両腕を振りながら大声を出した。
「日当たりのいいところに行きたいって言ったのは君なんだよ!それに、僕は今、大切なことを話していたのに!」
鼻を鳴らしながら歩き始めたキリモミ君だったが、それほど行かないうちに突然誰かから首根っこをつかまれてしまった。
振り返るとそれはいかめしい制服を着た警官だった。
「おいこらボウズ!」
キリモミ君は目を白黒させた。その警官は怒鳴り声で言った。
「何て汚らしい格好だ!まったくもってそのひどいボロ服は見ているだけで不愉快だぞ!」
キリモミ君も負けずに叫んだ。
「おじさん一体何なのさ!他人(ひと)をいきなりつかんだりして、僕が何をしたって言うの!」
すると警官は薄笑いを浮かべながら言った。
「この制服が見えないのか?ボウズ、いいか、俺は警官だ。この町の善良な市民からさっき通報があってな、汚らしい格好をした不審な腹話術人形が子供達の遊び場である公園に居座っている、何をしでかすか分からないから捕まえて欲しい、ってな具合だ。所持品の検査をするからポケットの中の物を出せ!」
警官はそう言い終わらないうちにすでにキリモミ君の片方のポケットに手を突っ込んでいた。そのポケットの中からは錐(きり)が出てきた。
警官は勝ち誇ったように叫んだ。
「見ろ!これは凶器だ。こんな物を持っているだけでも刑務所行きだぞ!」
警官はもう一方のポケットにも手を突っ込んだ。その時だ。ポケットの中にいたチューが思いっきり警官の手に噛み付いたのだ。警官は悲鳴を上げて飛び上がった。その隙にキリモミ君は警官の手から錐(きり)を取り返して、チューと一緒に逃げてしまった。警官は血相を変えて追いかけたが、完全に見失ってしまい地団太を踏んで悔しがった。
「畜生!あのクソボウズめ!今度見つけたらただじゃおかないからな!あのボロ服にお似合いのゴミバケツにぶち込んでくれるぞ!」
警官はそう叫ぶと鼻息を荒くして帰って行った。
しばらくすると、ちかくにあったゴミバケツのフタが開いて、中からキリモミ君とチューが顔をのぞかせた。キリモミ君は目を白黒させながらチューに言った。
「わざわざぶち込まれなくても自分から入ったさ!」
二人は目を見合わせて笑った。が、チューは真剣な顔になって言った。
「だけどこの町はとても恐ろしい所だよ。君の服がボロだっていうだけでこんな扱いを受けるなんて!」
そう言いながらキリモミ君の方を見てみると、キリモミ君は話を聞いておらずゴミバケツの縁に錐(きり)で穴をあけて遊んでいるではないか。
「まったく君ってやつはのんきなもんだね。」
チューはあきれてため息をついた。
そう、これからこの町で自分とキリモミ君の行く先に待ち構えている運命を思うと・・・チューにはため息をつくしかないのであった。



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