『大いなる機械』の記憶

 『大いなる機械』はこの町の中心に位置していた。
と言うより『大いなる機械』を中心にしてこの町が形成された、と言った方が正確だろう。
この町の人々は大部分が『大いなる機械』の中やまわりで働いていたし、また、それを誇りに思っていたものだった。
町のどこからでも『大いなる機械』は見えたが、町のどこから見てもその全体を見ることは出来なかった。
つまり、それほど大きかったわけだ。
実際、町の人々にもどこからどこまでが『大いなる機械』なのかよく分からなくなっていた。
町のすべてが『大いなる機械』を基準にして動いていた。『大いなる機械』が動いていれば人々は働き、『大いなる機械』が休めば人々も休んだ。

 こんな町でキリモミ君は生まれた。というか、意識はしていなかったのだが、ある日、キリモミ君が気がつくとこの町にいたのだ。よく考えてみればキリモミ君はずっとこの町にいたのだし、周りの人に聞いてみると、どうやら自分はここで生まれてここで育った腹話術の人形だそうなのだ。
「ふん、なるほど、そうなのか。」
キリモミ君は鼻を鳴らしながら自分が生まれて育ったらしいこの町を見回した。そして気がついたころからずっと着たまま一度も着替えたことがないボロ服のポケットの中に、これまた気がついたころにはすでに住みついていたネズミのチューの耳を引っ張りながらこう言った。
「ほら、あの『大いなる機械』とやらにまとわりついている人たちの横柄な顔付きを見てごらんよ。あの人たちは気がついていないんだね。自分たちが『大いなる機械』の部品にすぎないっていうことをさ!」
この町でのキリモミ君の記憶はここで途絶えてしまう。今になって思うことだが、どうやらこの発言が原因のようだった。キリモミ君は町の人々に取り囲まれたかと思うと、バラバラに壊されてゴミバケツにほうり込まれてしまったのだ。
「やれやれ。」
チューは呆れた顔で無残な姿のキリモミ君に言った。
「君は世間知らずで困るよ。壊されたくなかったら発言は慎まなくちゃ。」
そして、どこかに走り去って行った。
しばらくするとビルの谷間の暗がりから怪しげな人影がゴミバケツに近づいて行き、中に入っていたキリモミ君をそっとゴミ袋に入れて持ち去った。
この人物こそキリモミ君の生みの親であったのだが、その正体は誰にも分からなかった。



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