愛知県内には名工の彫刻や装飾に贅をつくした山車が三百を優に超え、知多半島一帯では“知多型”山車祭りが集中し、一大山車文化圏となっている。「亀崎潮干祭」はその代表格のひとつといえる。東組、石橋組、中切組、田中組、西組の5台があり、組は町内ではなく一族縁者が集まってつくる。この祭りは奉仕者たちが大老、中老、若衆役の秩序を厳重に守って、整然と運行されるところに特色がある。
見せ場は両日とも行われる「海浜曳き下ろし」。まず各山車は両脇に付けた梶棒を締め直す「棒締め」を行う。音頭取りの唄声に合わせて、十数人の若衆が掛け声も勇ましく縄で締めていく。そして神前神社前の海岸通りに勢揃いし、干潮時を見計らって海辺に曳き下ろす。砂浜は一度止まると車輪が食い込んでなかなか動かないので、一気に駆け下りる。海水に浸るか浸らないかのところで5台が縦列に並ぶ。その後、浜から曳き上げ、今度は所定の位置に横列に並ぶ。ここで順番にからくり人形技芸を奉納する。各山車には前棚と上山にからくり人形がある。前棚の人形は神事的要素が強い。東組宮本車の三番叟は3人の子供による直接操法のもので、ダイナミックに舞う。上山のからくりでは、特に田中組神楽車の「傀儡師(舟弁慶)」は人形が人形を操るという、全国的にも珍しいものである。
からくり人形のほかに山車の見所としては、「幕末の左甚五郎」とも言われる有名な信州諏訪の彫り師、立川和四郎冨昌など名工の手による素晴らしい彫刻が惜しげもなく埋め尽くされているところだろう。また運行時、庇が触れあうほどの間隔で山車を並べる技も見事だ。切り返しで一気にバックし、一発で決める。綱さばきと楫とりの妙技に、見物客から拍手喝采がわき上がる。国指定重要無形民俗文化財。
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